大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和24年(行)49号 判決

原告 本山たけ

被告 東京都特別区公安委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は被告が原告に対し昭和二十三年十一月十八日附達第三一二〇号を以てなした「風俗営業取締法第四條によりまあじやん遊技場の営業の許可を取り消す」旨の処分は之を取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。

三、事  実

原告は從來肩書地において許可を受け、まあじやん屋を営んでいたところ、被告委員会は(イ)原告が東京都風俗営業取締法施行條例第二十三條に基いて営業所内においては賭博行爲を防止すべき義務を負担しているにも拘らず、原告の夫本山清と共謀の上昭和二十三年十月四日、同月七日、同月八日、同月十一日の四回に亘り客席として許可をうけていた自宅六疊の間(客席として申請し許可をうけたのは右六疊を含む八疊の間である)を賭博場として使用することを知悉し乍ら博徒の訴外岡孝外数名に使用せしめ以て賭博開帳幇助を爲したこと、及び(ロ)遊技場として許可をうけた客席以外は之を客に使用せしむべきでないのに拘らず昭和二十三年十月十一日夜右許可をうけた室以外の玄関三疊の間で客に遊技を爲さしめたこと、以上(イ)(ロ)の二点につき風俗営業取締法(以下單に取締法と称す)第三條に基く東京都風俗営業取締法施行條例(以下單に都條例と称す)第四條第一項第二十三條第一号に違反せることを理由として公開による聽聞を行つた上昭和二十三年十一月十八日附達第三一二〇号を以て取締法第四條により営業の許可を取消す旨の処分を爲した。

然し乍ら

一、右許可の取消処分の理由となつた事実の中原告が夫本山清と共謀し営業の場所を賭博場として提供したこと及び遊技場として許可をうけて居らぬ場所で客にまあじやん遊技を爲さしめたことは何れも眞実に相違するものである。即ち(イ)本件遊技場に使用せる家屋は本山清の所有で同人が之を賭博場として岡外数名のものに使用せしめたのであつて、且つ原告と同人とは夫婦の関係にある以上同人の言動に服從せねばならぬ立場にある原告として同人の右行爲につき何等責任を負うべき筋合ではない、このことは清が右賭博開帳幇助について刑事責任を問われた際、原告に共犯関係の存在を認められなかつたことによつても明らかである。(ロ)次に本件家屋の前示三疊の間と居室六疊の間はいづれも遊技場として許可をうけている奧六疊の間と三間つゞきとなつて居り、右玄関三疊の間は遊技場である奧六疊の間えの通路であつて、遊技場として許可をうけた室の一部分とみられるから、右三疊の間で客にまあじやん遊技を爲さしめたことは直ちに客席以外の場所を客に提供したこととはならぬ。

以上の如く本件行政処分は事実を誤認して爲された違法あるものである。

二、更に右行政処分の根拠となつた取締法は憲法に違反し無効であり從つて之に基いて爲された本件処分も無効である。即ち

(一)  取締法は第一條において所謂風俗営業なるものを列挙し、第二條によつてその営業を営もうとする者は公安委員会の許可を受けなければならないと規定し、この種の営業を原則として禁止しているが右第一條の掲記する営業はそれ自体何ら反社会性を有せず、公共の福祉に反するものでもないから之を禁止する前掲取締法は公共の福祉に反せざる限り職業選択の自由を保障している憲法第二十二條第一項に違反し無効である。

(二)  更に取締法は、風俗営業を営むものゝみに善良の風俗を維持する義務を負担せしめているが、一国に於ける善良の風俗を維持する義務はその国民全般が平等に負うべきであつて、然らずして之を特定のものゝみに負担せしめる取締法は国民平等の原則を規定した憲法第十四條第一項に違反し無効と言わねばならない。

(三)  次に取締法は、善良の風俗という漠然たる概念を措定し之を侵害する行爲を取締る名目の下にその第六條に於て取締法又は之に基く都道府縣の條例の実施につき必要があるときは、当該官吏及び吏員をして身分を証明する証票を携帶せしめるだけで自由に営業場に立入ることを許可しているが、かくの如きは犯罪行爲の被疑者に対しても、その住居に立入る場合には権限を有する司法官憲の発した令状を所持することを要求している憲法第三十五條第一項に違反する許りでなく、自由に対する国民の権利については立法其の他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨を規定している憲法第十三條に違反し無効である。

三、仮りに取締法が憲法違反でないにしても、同法第三條は都道府縣は、條例により風俗営業に於ける営業の場所、営業時間及び営業所の構造設備等について善良な風俗を害する行爲を防止するため必要な制限を定めることが出來ると規定し、該制限に関する細目の規定は條例に委任するところであるが、右法條の委任により條例によつて制限しうるのは風俗営業に於ける物的條件に限られるべきであることは規定上明白である。しかるにこの点に関し都條例がその第二十三條に於て風俗営業を営む者に対し賭博其の他著しく射倖心をそゝる様な行爲を防止する義務を課する規定を設けているのは正に右委任の範囲を超えたものであつて無効である。

四、前示達第三一二〇号の本件行政処分の通達書には東京都特別区公安委員会の表示があるのみで、右委員会代表者の表示及び捺印を欠いているから右処分は形式的に無効である。

以上何れの理由によつても本件行政処分は違法であるから原告はその取消を求めるため本訴に及んだと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張事実中原告が肩書地に於てまあじやん屋を営んでいたこと、被告が原告主張の達を以て主張の如き事由に基き公開の聽聞を開いた上右営業許可取消処分を爲したこと、及び右処分の通達書に東京都特別区公安委員会との表示のみあつてその代表者の署名捺印のなかつたこと、原告が遊技客に使用せしめた玄関三疊の間が遊技場として許可をうけた奧六疊の間(原告は許可を受けた八疊の間を模様変したものである)と中に六疊の間一室を挾んで部屋続きであることはみとめるがその他は爭う。原告は岡孝外数名のものに対し、賭場を提供し、その謝礼として一回金千円を收受し、又客席として認められていない居宅の一室を遊技客に提供して遊技をなさしめたので、被告は原告をして営業を継続せしめることは善良な風俗を維持する上から不適当であるとみとめ右営業許可を取消したものである。原告は取締法並に都條例を以て無効であると主張するが、(1)憲法第二十二條第一項において保障する職業選択の自由は公共の福祉に反せざる限りに於て認められるべきものであることは規定上から明らかであつて、從つて公共の福祉に反する場合法律を以て之に政策的な制限を加え得べきことは同條の趣旨とするところと解さねばならない。取締法も右法條の趣旨に基いて公共の福祉の見地から制定されているのであるから之を以て違憲と云うを得ない。(2)又取締法第三條は風俗営業に伴い勝ちな賣淫、賭博等の風俗犯罪其の他善良の風俗を害する行爲を防止するため必要な制限を條例を以て定めることを都道府縣に委任して居るのであつて、その制限を定め得る範囲を必ずしも風俗営業における営業の場所、営業時間、営業所の構造設備の如き單なる物的條件のみに限定するものではなく、物的條件にあらざる事項、例えば営業に從事する者の善良の風俗維持につき遵守すべき事項の如きは当然これを定めうることゝした趣旨であつて、このことは右規定が「………営業場所、営業時間及び営業所の構造設備等について」と云う表現の方法を以てせることからみても明白である。以上の如くであるから都條例第二十三條は決して取締法第三條の目的並に委任の範囲を超えた無効のものとは云い難い。(3)更に警察法第五十一條乃至第五十三條第四十四條によつて準用される同法第二十六條第二項によれば、被告委員会の委員長は單に合議体たる委員会の会務を総理するに止まり、他に委員長が外部に対し委員会を代表すべき旨の規定がなく、取締法第四條においても風俗営業を営むものに対し営業の許可を取消し、若しくは営業の停止を命ずる等の行政処分を爲す場合に公安委員会が爲すべきことを規定するに過ぎない。代表者によつて外部に対する意思表示を爲すことを必要とする場合には必ず法律を以て規定さるべきである。從つて外部に対する公安委員会の意思表示は合議体自身の名義によつて爲されるのが相当であり、右東京都特別区公安委員会名義によつて爲された本件処分は適法である。

以上の如く本件行政処分は何れの点よりするも適法であつて、原告主張の如き違法は何等存しないから右処分の取消を求める原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

四、理  由

原告が從來肩書所在家屋に於てまあじやん屋を営んでいたこと、被告が(イ)原告がその夫清と共謀の上客席として許可をうけていた右家屋六疊の間を訴外岡孝外数名が賭博場として使用することを知悉し乍ら昭和二十三年十月四日、同月七日、同月八日、同月十一日の四回に亘つて同人等に使用せしめて賭博開帳を幇助したとのこと及び(ロ)原告が同年十月十一日夜右家屋の内遊技場として許可を受けていない玄関三疊の間で客に遊技をせしめたとのことを理由とし、右は東京都風俗営業取締法施行條例(以下單に都條例と称する)第二十三條第一号及び第四條第一項違反であるとして風俗営業取締法(以下單に取締法と称する)第四條に則り公開の聽聞を行つた上昭和二十三年十一月十八日附達第三一二〇号を以て原告に対し、右営業許可を取消す旨の処分を爲したことは当事者間に爭いがない。

一、よつて先づ本件行政処分の根拠である取締法が憲法に違反し無効であるとの原告の主張について判断する。

(イ)  取締法が憲法第二十二條第一項違反であるとの主張について。

憲法第二十二條第一項は公共の福祉に反しない限り職業選択の自由を保障しているが、右は反面職業選択の自由といえども公共の福祉のために政策的見地から法律を以て之を制限し得る趣旨を規定せるものと解すべく、而もその制限はその職業を営むこと自体が公共の福祉に反する場合は勿論然らざる場合に於ても、その運営如何によつては公共の福祉に反する虞あるに於ては之をなし得るものと言うべきである。而して取締法第一條に列挙せる風俗営業は客を接待して遊興又は飮食をさせ設備を設けてダンスをさせ或は射倖心をそゝる虞のある遊技をさせる営業であつて、それ自体では何等公共の福祉に反するものではないけれども、その性質上やゝもすれば賣淫、賭博等の所謂風俗犯罪を誘起する危險がありこの種の営業を何らの制限を加えることなく何人にも場所的、時間的、数的又はその態様に於て自由に営ましめるに於ては社会秩序を維持し、公共の福祉を増進せんとする国家目的に反すること明白であるから、公共の福祉のため此種営業につき国民の職業選択の自由を制限して、之を公安委員会の許可にかゝらしめた取締法は憲法第二十二條第一項に違背せるものではない。從て原告の右主張は理由がない。

(二) 取締法が憲法第十四條第一項違反であるとの主張について。

憲法第十四條第一項の趣旨はすべて国民は法の下に平等であつて人種、信條、性別、社会的身分又は門地により政治的経済的又は社会的関係に於て不合理に差別されぬことを保障したものであつて、如何なる場合に於ても絶対的に国民を平等に取扱わねばならぬとの謂に非ず、別言すれば右の平等権自体にも自ら制限が内在し合理的なる差別までも禁止するものではないと見るべきであつて、此の理は社会的身分と云い得べき職業についても異らない。從て特定の職業に從事する者に対し業務上特別の注意義務を課するという如きも合理的である限り当然許されるべきである。よつて本件につき之を見るに前段説示の如く風俗営業はその運営如何により社会秩序、公共の福祉を害する虞があるのであるから之を防止する爲該営業に從事する者に対し善良の風俗を害する行爲を防止すべき義務を特に負担せしめるが如きは正に合理的な差別として憲法第十四條第一項に牴触するものとは云い難く、從て取締法及び之に基く都條例に於て右義務を規定していることは何ら違憲ではない。

(三) 次に取締法が憲法第十三條第三十五條第一項に違反するとの主張について。

憲法第三十五條第一項は住居の不可侵権を保障し、司法官憲の発する令状のない以上濫に私住居に侵入することを得ない旨を規定するが、同條は刑事手続に関する規定であることは右規定の位置及び体裁に徴し明かであつて、直接に行政上の手続に関するところではないから取締法を以て憲法の右條規に違反するものと爲すを得ない。然のみならず取締法第六條が当該官吏及び吏員に取締法又は之に基く都條例の実施につき必要あるときに、單にその身分を証明する証票を携帶するのみを以て立入ることを認めたのは風俗営業の営業所に限るのであつて、右に営業所とは本來その性質上不定多数人の出入すべき場所であるから、この点に於て通常の住居と異るばかりでなく、取締法の認める立入権は善良の風俗維持乃至それに害ある行爲の防止という警察行政上の必要に出ずるものであるから、之を以て住居の不可侵を認めた憲法の精神に悖るものともなすことを得ない。而して原告は善良の風俗維持若しくは風俗を害する行爲の防止という如き漠然たる概念を営業所立入の條件とすることを非難するも、この場合善良の風俗維持と云うは主として賣淫又は賭博等所謂風俗犯罪の防止に外ならず決して漠然たる観念ではない。從て取締法が漠然たる観念の下に国民の自由を制限せんとするものでないこと明かであつて、之を以て国民の自由尊重を保障した憲法第十三條の規定に違反するものとなすを得ぬこと勿論である。

よつて原告の右主張も之を排斥する。

以上の如く取締法は原告主張の憲法各條項に違反しないのは勿論その他憲法の他の條項又は精神に違背せるものではない。

二、都條例が取締法第三條の委任の範囲を超え無効であるとの主張について。

取締法第三條の趣旨は風俗営業に於ける営業の場所営業の時間、及び営業所の構造設備等の如何によつては善良の風俗を害する事項の発生する虞がある爲、之を防止するに必要な制限を都道府縣が各地方の事情に應じて條例を以て定め得ることとしたのであつて、その趣旨よりすれば風俗営業の設備の使用方法についても條例を以て善良の風俗を害することを防止するに必要な制限を加え得るものと言うべく、取締法第三條が例示する営業の場所、営業時間、営業所の構造設備の如き物的條件に対する制限と併行して之を管理する営業從事者に対し直接必要な義務を課するのでなければ、同條の企図するところを充分完うすることを得ず、又風俗営業を許可制とした取締法の精神にも合致するに至らない。以上の見地よりすれば、都條例第二十三條第一号が風俗営業者に対し、善良の風俗を害する賭博その他著しく射倖心をそそるような行爲を防止する義務を負担せしめたことは敢て取締法第三條の委任の範囲を超えたものとなすべきでなく、この点につき何等の違法も存しないから原告の右主張は理由がない。

三、本件行政処分が東京都特別区公安委員会の名を以て通告されその代表者の表示がなかつたから右処分は無効であるとの主張について。

警察法第四十四條第五十一條乃至第五十三條の規定によつて、特別区公安委員会について準用される警察法第二十六條第二項によれば公安委員会の委員長は会務を総理するとのみあつて、その他に別に外部に対して公安委員会を代表する旨の規定は存在しないから公安委員全員が共同して公安委員会を代表するものと言わざるを得ない。而して本件行政処分の通達書には東京都特別区公安委員会の表示のみあつて、その代表者の署名捺印のないことは当事者間に爭いないけれども、通達者に代表者の署名捺印が必要であるとの規定は何処にも存在しないのは勿論、公安委員全員の署名捺印を要求せる法規上の根拠もなく、從て本件行政処分が取締法第四條により風俗営業の許可の取消の権限を與えられた被告により爲されたものなること明白である以上、右処分の通達書に東京都特別区公安委員会とのみ表示せられていることが違法であつて右処分の効力に消長を來すものとは言い難く、從て原告の右主張も亦採用し難い。

四、最後に本件行政処分の理由とせる事実の有無に爭あるに付この点につき判断する。

(一)  成立に爭いのない乙第四号証、同第五、六号証の各一、二及証人本山清の証言(後記信用しない部分を除く)によれば、原告は昭和二十三年十月当時まあじやん営業が不振で生活費に事欠き、且たまたま病気に罹り医療費にも窮していた処、かねて顏見知りである岡孝が遊技場として許可をうけている本件家屋奧六疊の間の貸與方を依頼したので、同人が賭博を開帳することを了知の上で夫清と共に之に承諾をあたえ同月四日、同月七日、同月八日、同月十一日の四回に亘り右の者等に奧六疊の間を使用せしめ、以て賭博開帳を幇助し謝礼金として金千円宛合計金三千円(十一日分は受領せず)をうけとつたことが認められる(本山清が情を知つて右の如く奧六疊の間を岡等に使用せしめたことは当事者間に爭いない)証人本山清の以上の認定に反し右賭博場の提供は原告の反対にも拘らず、本山清に於て岡に承諾を與えたものである旨の供述部分は措信し難い。然らば原告は明かに都條例第二十三條第一号に違反せるものと言うべきである。

(二)  次に本件家屋の玄関三疊の間は遊技場として許可されている奧六疊の間えの通路に当つていることは、当事者間に爭いなく、右玄関三疊の間を原告が昭和二十三年十月十一日夜遊技のため客に使用せしめたことは原告の自認するところであつて成立に爭いない。乙第一号証の四、同第三号証の一、二によれば、右三疊の間は遊技場として許可されたる四坪(奧六疊及び中六疊の間の一部)に含まれず、独立した一室であることが認められ、右四坪の部分に行くには事実上右三疊の間を通らざるを得ない構造になつているけれども、玄関三疊の間を客席えの通路として使用することと、遊技場として使用することとはその目的が明かに異つて居り、原告主張の如く事実上通路として使用する部屋を遊技場の一部分と看做すが如きは本件遊技場の営業許可が奧四坪に対して爲された趣旨を沒却するものであるから、右三疊の間で客にまあじやんを爲さしめたことは直ちに客席以外の場所を使用せしめたこととはならぬ旨の原告の主張は到底採用することが出來ない。從つて原告が右三疊の間を遊技場としたことは明かに違法の所爲と言わざるを得ない。

以上の如く本件行政処分には事実の認定、法令の適用につき何ら違法の点を認められず原告の主張はすべて理由がないから原告の本訴請求は之を棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五條第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 仁分百合人 吉岡進 香川保一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!